網膜の血管が詰まる病気(網膜静脈閉塞症)
2013.03.05 網膜
本日は白内障手術6件
翼状片1件
抗VEGF抗体硝子体注射1件
すべて無事に終わりました。
網膜の血管が詰まる病気(網膜静脈閉塞症)
先週は、網膜と、網膜に走る血管がどのようなものかを説明しました。今回は、網膜の血管が詰まってしまう病気、網膜静脈閉塞症について説明したいと思います。
網膜の血管は、人間の体にある血管のうち、外から直接観察できる唯一の血管です。そのため、眼底検査をすると、動脈硬化の程度がある程度分かります。この網膜の血管が詰まってしまうと、網膜は死んでしまうため、物が見えなくなってしまいます。
これは網膜の静脈の一部が詰まってしまった写真で、網膜静脈分枝閉塞症(もうまくじょうみゃくぶんしけいそくしょう)と言います。網膜の静脈が詰まると、心臓に帰るはずの血液が行き場を失って網膜に溜まります。そのため、網膜に血が溜まったように見えるのです。
血管が詰まった部分では、VEGFというホルモンが産生されます。これが厄介者で、周囲の網膜をむくませたり、新生血管という悪い血管を作り出して出血を引き起こしたり(硝子体出血)、悪性の緑内障(新生血管緑内障)を引き起こします。
網膜の浮腫が黄斑(色が濃い部分)に達すると、急激に視力が低下します。
これは、上のBRVOの方のOCTです。黄斑がむくんでいることが分かります(赤矢印)。そのため、厚みマップ(左上の図)では、赤~白色になっています。右上を見ると、中心の厚みは467μmでした。血管の閉塞と浮腫によって視力は0.2まで下がっていました。
初診時にすぐに抗VEGF抗体(VEGFを減らして網膜の浮腫を減らす薬)を注射しました。浮腫に対する治療は時間との勝負で、時間が経ってしまうとあまり効果がありません。
上のOCTで赤矢印の部分のむくみはかなり減っています。また、厚みマップでは、中心の赤~白の部分が大分減っていることも分かります。中心の網膜厚も314μmで、大分減りました。視力は0.7まで上昇して、とても喜んでいました。
抗VEGF抗体の注射の効果は一時的なことも多く、何度か注射が必要になることもよくあります。また、浮腫を改善しても、血流が途絶えたことによるダメージは残るので、完全に視力が戻るわけではありません。新生血管を防止するためには、出血が引いた後でレーザー治療が必要になります。
平成25年2月の手術実績
2013.03.01 手術実績
白内障手術 18件
翼状片手術 1件
ボトックス(眼瞼痙攣に対する注射) 1件
手術、外来ともに皆さんの期待に応えられるよう頑張りたいと思います。

収差について
2013.02.28 白内障
今日花粉情報を見たら、栃木県も「やや多い」になっていました。
すかさず、空気清浄機を診察室の中に入れてしまいました。
最近花粉症があまり出なくなって喜んでいましたが、今年はどうでしょうか?
空気清浄機のある診察室にこもっていれば大丈夫かな?
収差について
今日は難しい話ですいません。収差について話したいと思います。
昔のカメラで、ピンホールカメラは名前くらい聞いたことがあるでしょうか?カメラの正面に針穴のようなものが空いていて、そこからカメラの中に入った光をフィルムに映し出す、というものです。
確か、中学校あたりの理科の実験で作ったような気もします。ピンホールカメラは、穴が小さいと中の画像がはっきりします。しかし、穴が小さいほど光量が足りないので、暗くなってしまうのです。ですから、明治時代のカメラでは、数秒間じっとしていないとフィルムが感光しませんでした。
逆に穴を大きくしてしまうと、ピントが合わなくなってぼんやりになってしまします。穴を大きくしてもはっきりとした像を得るためには、レンズが必要になります。当初レンズは球面の一部を取り出した形になっていました。これを「球面レンズ」と言います。
しかし、この球面レンズには限界があって、レンズの中央を通る光と周辺を通る光でピントが合う位置が微妙にずれているのです。これを「球面収差」といいます。当然ピントが甘くなってしまいます。かなり昔から学者の間では球面レンズでは球面収差が出てしまうことがわかっていましたが、パソコンが発達するまでの時期では、レンズのデザインが難しかったようです。当院で使用している眼内レンズは「非球面レンズ」といって、球面収差が少なくなるように設計されています。
眼底写真のみかた
2013.02.26 網膜
今日の午後は手術を行ったのですが、手術の最中に地震がきてびっくりしました。顕微鏡で目を見ていたので、その分揺れも大きく感じました。幸い、小山市は震度2だったので、大したことはありませんでした。先日一度停電を経験しているので、手術室の無停電装置がきちんと作動することは確認済みです。停電しても手術中の症例は余裕をもって手術てきそうでした。
本日は翼状片1件、白内障5件、すべて問題なく終わりました。
眼底写真のみかた
今後眼底の病気についても解説をしたいと思いますが、その前に眼底写真について解説をしたいと思います。眼底写真は目の中を撮影したものですが、大体下の図で赤い四角の中あたりが写っています。
眼球は3つの層から出来ています。一番内側の白い層は「網膜(もうまく)」といって、カメラでいうフィルムの役割をします。その内側は「脈絡膜(みゃくらくまく)」といって、やや薄ぐろい色をしています。とても血管が豊富で、網膜に栄養を送る役割や、目の中を暗くする役割があります。一番外側は「強膜(きょうまく)」といって、とても硬くできているので、目を形作る役割をしています。
眼底写真を見てみると、全体的にオレンジ色に見えています。本当は網膜が一番手前にあるはずなのですが、半透明なのでその奥にある脈絡膜の色が見えているのです。
網膜剥離という病気の写真を見ると網膜の存在が一番分かりやすいと思います。 下の方でひらひらした網膜が見えます。これを見ると、網膜が半透明であることが分かります。
次に、眼底写真の細かい部分を順に説明します。
赤の矢印は視神経乳頭と言って、網膜の神経や血管の出入りしています。
青色の矢印の部分は、周囲よりやや色が濃くなっていますが、ここは「黄斑」という大事な部分です。網膜の中で一番神経が密で、この部分がやられると視力ががくっと下がります。
網膜の血管のうち、細い方(紫の矢印)は網膜動脈、太い方(緑の矢印)が網膜静脈です。
来週は網膜の血管が詰まる病気、網膜静脈閉塞症について説明したいと思います。
白内障は2度生じる?後発白内障について
2013.02.21 白内障
外来をやっていて年に1-2回位患者さんから「先生!白内障の手術をもう一回やってよ!」と言われることがあります。白内障の手術というのは、濁った水晶体を取り出す手術なので、2回取り出すことは残念ながらできません。白内障手術で目の中に挿入した眼内レンズも50年位はもつようなので、滅多なことでは交換しません。恐らく、「白内障手術後の明るくなった体験が忘れられない」から、もう一度体験したいという事なんでしょうね。
ところが、白内障手術で濁った水晶体を取り出したはずなのに、手術後にまた白内障になることがあります。今回はそのお話です。
折角白内障手術をして見えるようになっても、しばらくしてからまた白内障のようになったようなかすみが出てくることがあります。眼内レンズ自体は綺麗なのですが、レンズの表面に濁りが付着することがあります。これを後発白内障といいます。
青い部分は水晶体嚢といって、もともと水晶体を覆っていた透明な膜です。黄色いのは眼内レンズです。
水晶体嚢の裏側には、水晶体の細胞(水晶体上皮細胞)がくっついているのですが、白内障手術で水晶体を取り除いても、水晶体上皮細胞は全部は取り除けません。ごく一部に残った細胞は、手術後に少しずつ増殖をし始めます。あまりに細胞が増殖すると、水晶体嚢に濁りをきたすことになります。
これが後発白内障の写真です。人工のレンズの奥にぷつぷつとした細胞が見えると思います。これのせいで視力がぐっと落ちてしまうことがあります。
水晶体嚢にピントを合わせてこのレーザーをうつと、眼内レンズを傷つけずに水晶体嚢だけ弾くことができます。
眼内レンズの中心部分だけ水晶体嚢を弾いて切開します。この大きさでも通常の瞳孔より大きいので、よく見えるようになります。眼内レンズよりも大きく水晶体嚢を切り開いてしまうと、眼内レンズの位置がずれてしまうので、一般的にはこれくらいの大きさで切開します。
当院では、ellex社のヤグレーザーを使っています。レーザーが眼内レンズにあたると小さな傷がついてしまうことがあるのですが、この会社のレーザーは、とてもよくできているので、レンズをほとんど傷つけずに水晶体嚢を綺麗にすることができます。